スプリングトレーニング遅延の影

カクタスリーグのブリジット・ビンスバッカーBridget Binsbacher事務局長は、
「パンデミックの中、リーグは2021年のスプリングトレーニングのシーズンを関係者全員にとって安全な方法で開催できるように、10のトレーニング施設を確保するためのタスクフォースを結成しました。シーズンを開始するために協力する準備ができています。 しかし、米国で最も感染率が高いマリコパ郡のパンデミックの現状を考えると、状況を改善できるように、スプリングトレーニングの開始を遅らせるのが賢明だと考えています。」
とキャンプの遅延をMLBに要望しました。

MLBのスプリングトレーニングは、アリゾナ州とフロリダ州の2ヶ所で開催されます。それぞれ15球団ずつ参加して行われ、アリゾナの方をカクタスリーグ。フロリダの方をグレープフルーツリーグと呼びます。
アリゾナ州、特にマリコパ郡では、依然COVID-19の感染率が高く推移しているのですが、ワシントン大が3月中旬には減少傾向になるだろうと予測しており、そんな状況の中でのカクタスの要望。私としては「ですよねー」って感じです。
もう一方のキャンプ地であるフロリダのグレープフルーツリーグには、カクタスと同じような地域とチーム、キャンプを取りまとめる組織がなく、その立場に最も近いフロリダスポーツ財団は、今のところ同様の延期を求めていません。でももし、カクタスの主張が通るようなら、グレープフルーツもそれに追随するだろうとは思います。

トレーニングキャンプなんか、ちょっと遅れさせてもいいじゃん。そんなに大きなニュース?って思われるかもしれませんが、これには、昨年から続いているMLBと選手会MLBPAの大きな確執が絡んできます。

昨年は、COVID-19パンデミックの中でシーズンを例年通りに始めることができませんでした。そして、準備をしなければ始めることはできません。
MLB機構と球団側は、いつからなら始められるのか、始められたとしても観客を入れることができるのかどうか、選手やスタッフたちの安全面をどう担保していくのか、TVの放映権は……と模索する中で、MLB全体としてかなりの減収を予想。一方で、選手のサラリーは契約上発生してしているので、球団側は選手のお給料を減額したいと主張しました。
その頃、すでに始まっていたキャンプが3月に中断。選手たちは当然、フルサラリーでのフルシーズンを望んでいましたが、もしフルシーズンできなかったとしても、試合数に応じたお給料が欲しい、とこちらも強く主張しました。
この時点で、すでに組まれていたスケジュールでの開催はできなくなっていましたし、どういうスケジュールで開催されるにしても、しっかりとしたトレーニングキャンプを経ずにレギュラーシーズンに入ることはできません。また、マイナーリーグはシーズンを全休することが決定してしまい、マイナーの選手たちは困窮しました。マイナーリーグの全休は、選手を大切にせず、利益を優先していると捉えられ、ただでさえ難航していた話し合いは暗礁に乗り上げたような状態になりました。
しかし、MLBにしても球団にしても、試合をしないことには収益を上げることはできません。そこで、この状況でより多くの収益を上げるためにプレイオフを拡大し、なおかつ例年通りの10月に開催することで、TVの視聴率を高く維持していく方針としました。また、レギュラーシーズンにおいては、試合数をなるべく減らさずに支払金額のみを減らそうと交渉したことでさらに大きな反発を招きましたが、交渉が難航したことでシーズン入りが遅れ、最終的には「なあなあ」で試合数が減ることになりました。

結局のところ、昨シーズンは7月にスタート。各球団60試合が行われ、選手たちには比例配分されたお給料が支払われましたが、それ以降確執は続いています。選手たちの年俸契約には、○試合以上出場したら、○アウト以上奪ったら、○本以上のHRを打ったら○ドル支払う、といったオプションが設定されている場合も多く、シーズンを遅らせたり切り捨てたりすることによって選手が本来貰うことができたはずのお金を失うことについて、球団が説明する必要があります。

今年のシーズンでも、選手会はなるべくフルシーズンでフルサラリーを求めて交渉するはずです。リーグは、かなり譲歩していかなければならないでしょう。
もちろん、私はキャンプを遅延させることが適切であるとMLBとMLBPAが一緒に決定してくれたらいいなあ、と思っています。そりゃあ、試合がたくさん見られれば嬉しいですが、やっぱりそれだけじゃありません。確執を早期に解消するためにも、遅延させている間にしっかりとした話し合いを重ねてほしいです。